2025.11.04
Thai Local News

長寿経済が拓く新しいSカーブ:高齢化をチャンスに変えるタイの挑戦

長寿経済が拓く新しいSカーブ:高齢化をチャンスに変えるタイの挑戦

Photo by Brett Jordan on Unsplash

ビットカブ・キャピタル・グループ・ホールディングス株式会社の創設者兼CEOであるジラユット・サップシーソーパ氏は、クイーン・シリキット国立コンベンションセンターで開催されたサステナビリティ・エキスポ2025でクルンテープ・トゥラキット氏が主催したセミナー「適応への呼びかけ:貿易と産業における持続可能性」でこの問題について講演した。

タイにおける最大の危機は、金融危機や家計債務ではなく、差し迫った健康危機である。人口構造に起因する要因としては、現在、年間の出生数が例年の100万人から50万人に減少し(50%減)、さらに死亡率は前年より高くなっている。昨年は、タイの死亡者数が出生者数を上回った。

これは、今後5年以内にタイが「超高齢化経済」と呼ばれるようになることを意味しており、タイ人の5人に1人、つまり20%が65歳以上になることを意味する。

なお、現在の公衆衛生制度や医療体制は、「症状に対処すること」に重点を置いており、根本的な原因の解決には至っていない。つまり、従来型の医療システムは症状を抑えることに重きを置く一方で、問題の根源にアプローチしていないのである。

治療から予防へと発想を転換すべき

ジラユット氏は、タイは「治療から予防へ」という発想の転換を図るべきだと述べ、その例としてフィンランドのモデルを挙げた。

従来の政策は、いわば「時代遅れの政策」であり、人々が「医療制度があるから大丈夫」と考え、結果的に自らの健康を損なうことを助長してきた。

一方、フィンランドではすでに「病気を未然に防ぐ」という予防重視の理念が注目され始めている。予防にかかる費用と治療にかかる費用の間には、何倍もの大きな差がある。たとえば、フィンランドでは1万人の国民にビタミンを配布する費用は、寝たきりの末期がん患者1人を治療する費用とほぼ同じ金額に相当すると言われている。

このことからも、もしタイが予防の重要性を理解せず、健康リテラシーを欠いたままであれば、将来的に社会保障基金は深刻な財政危機に直面することになる。

タイ、5年以内に「超高齢社会」へ 「長寿経済」が唯一の新Sカーブに

ジラユット氏はまた、タイの将来の強みと弱みを次のように評価した。

1) 人口構造の危機

ジラユット氏は、今後5年以内にタイは「超高齢経済(Super Aging Economy)」と呼ばれるようになるだろうと指摘した。つまり、タイ国民の5人に1人(約20%)が65歳以上になるということである。

さらに、ASEAN諸国との間でも大きな格差が生じている。他の国々と比較すると、タイの高齢化のスピードは極めて速い。フィリピンの平均年齢は約25歳、インドネシアは約30歳であり、タイはこれらの国々に比べて急速に年齢構成が高齢化していることが明らかである。

2)科学技術分野の人材不足

タイはデジタル人材の育成において依然として競合国に遅れをとっている。一方、ベトナムでは科学技術分野での人材育成が進み、毎年の輩出数はタイを上回っている。

タイ人としてこの事実を認めると、タイはデジタル経済において成熟しておらず、金融ハブとして中東やドバイのような国々と競争するのは困難である。

3)タイの新たな黄金機会—「長寿経済(Longevity Economy)」で世界に挑む

ジラユット氏は、タイの強みは健康と長寿であり、新たなグローバルSカーブとなる可能性があると指摘する。これは、タイが海、山、食料、薬用植物など、健康増進に活用できる優れた天然資源を保有しているからである。同時に、世界は高齢化社会に突入している。富裕層は高齢者であり、彼らが買いたいのは「時間」である。健康で長生きするためには、健康寿命(Health Span)を平均寿命(Life Span)と等しくすることが重要な課題となる。タイは、このグローバル市場への答えとなる可能性を秘めている。

日本もすでに世界トップクラスの「超高齢社会」を経験しています。つまり、日本には、高齢社会を乗り越えてきた技術・ノウハウ・製品設計力がある。これは、日本企業がもつ「成熟した高齢者対応モデル」を、輸出型のソリューションとして展開するチャンスではないかと思う。

 

出典:Post Today.2025.10.3