2026.09.10
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【前編】タイ、「Bio Hub of ASEAN」へ農業資源を高付加価値化ーナコンサワン・バイオコンプレックスとBIOTECがつなぐ農業・素材・製造ー

【前編】タイ、「Bio Hub of ASEAN」へ農業資源を高付加価値化ーナコンサワン・バイオコンプレックスとBIOTECがつなぐ農業・素材・製造ー

Image AI-generated illustration.

タイでは、豊富な農業資源を単なる一次産品として輸出するのではなく、バイオテクノロジーを通じて高付加価値製品へ転換する動きが加速している。タイ政府はバイオ産業を重点産業の一つと位置付け、2027年までの「Bio Hub of ASEAN」実現を目標に掲げており、BCG(Bio-Circular-Green Economy)政策とも連動して農業資源の高付加価値化を進めている。

国家戦略を具現化する「ナコンサワン・バイオコンプレックス」

タイのBio Hub戦略を象徴するプロジェクトの一つが、ナコンサワン県タクリー郡の「ナコンサワン・バイオコンプレックス(Nakhon Sawan BioComplex:NBC)」である。ナコンサワン県はタイ有数のサトウキビ生産地で、同プロジェクトではサトウキビを砂糖として利用するだけでなく、バイオエタノール、バイオマス発電、バイオ化学品、バイオプラスチックまで一体的に生産するバイオリファイナリーの構築が進められている。

プロジェクトは2段階に分けて整備が進められている。

1期は、バイオ産業を支える「基盤づくり」の段階である。製糖工場を中心に、バイオエタノール工場、バイオマス発電・熱供給設備を整備。サトウキビを砂糖やエタノールの原料として利用するだけでなく、搾りかす(バガス)も発電燃料として循環利用することで、製糖からエネルギー供給までを一体化した生産体制を構築した。ここで整備されたエネルギーや蒸気などのインフラは、第2期のバイオ化学品・バイオプラスチック産業を支える基盤となっている。

2期は、第1期で整えた産業基盤を活用し、「高付加価値のバイオ製品」を生産する段階である。その代表例が、米国NatureWorksによるPLA(ポリ乳酸)の一貫生産拠点である。NatureWorksは2026年4月、NBC内に年間約7万5,000トンのPLA生産能力を持つ新工場を開設した。タイ産サトウキビ由来の糖を原料に、乳酸、ラクチド、PLAまでを一貫生産する。PLAは食品包装、テイクアウト容器、繊維、不織布、3Dプリンター材料などに利用され、タイの農業資源を世界市場向けの高付加価値素材へ転換する代表例となっている。つまり、第1期で「砂糖・エネルギーを生み出す産業基盤」を整え、第2期で「バイオ化学品・バイオプラスチックなどの高付加価値産業」へ発展させるというのが、ナコンサワン・バイオコンプレックスの大きな流れである。

「Bio Hub」は工場誘致だけではない

タイのBio Hub政策は、製造拠点の整備に加え、農業の生産性や付加価値を高める技術開発も重視する。バンコク銀行が中小企業向けに展開する情報プラットフォーム「Bangkok Bank SME」は、食料安全保障や気候変動、ESG、Net Zeroへの対応を背景にAgri-TechとBioTechを重要な投資分野として挙げる。タイが持つコメ、サトウキビ、キャッサバ、パーム油、果物などの多様な農業資源をBioTechと組み合わせ、高機能・高付加価値化する余地は大きい。

また、GI(地理的表示)など地域固有の価値と植物育種・食品技術を組み合わせることで、地域産品の競争力を高める可能性もある。重要なのは、農産物を「量」で売るだけでなく、機能性、品質、環境価値、知的財産を付加して市場価値を高めることである。

BIOTEC、研究成果を民間ビジネスへ

農業資源の高度利用を支える存在の一つが、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)傘下のタイ国立遺伝子生命工学研究センター(BIOTEC)である。BIOTECは、タイの農業・バイオ資源を民間企業が活用できる高付加価値のバイオイノベーションへ転換する取り組みを進めている。農産物だけでなく、副産物や加工残渣も、食品・機能性成分、化粧品、バイオ素材などへ展開できる可能性がある。

スタートアップやSMEにとっては、基礎研究をすべて自社で抱えるのではなく、研究機関が持つ技術や知的財産を活用し、商品開発、量産、販売、市場開拓に集中する選択肢がある。「農業資源 × 公的研究機関の技術 × 民間企業の事業化力」は、タイBioTech産業の有力な成長モデルとなり得る。

日本企業に広がる「素材・共同開発・ASEAN市場」の接点

日本企業にとっては、タイ産バイオ素材の調達、食品包装や化学分野での共同開発、研究機関との技術連携、ASEAN向け製造拠点の構築などが具体的な選択肢となる。特に、タイが持つ豊富な農業原料と、日本企業が得意とする素材技術、品質管理、加工技術を組み合わせれば、低炭素・循環型製品の共同開発につながる可能性がある。

タイのBio Hub戦略のポイントは、農業から素材・製造までのバリューチェーンを国内につなぐことにある。農業資源を高付加価値素材へ転換する産業基盤が整うにつれ、日本の中小企業にも、原料調達だけでなく技術提供や共同商品開発という形で参入機会が広がりそうだ。

 

Sources(リンク先の情報はタイ語または英語で掲載されています。)

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