2026.10.02
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タイ各地で大雨・洪水、バンコクの都市機能にも影響― 学校・通勤・空港まで広がる影響、AIと大型インフラで「水が来る前」の対策へ ―

タイ各地で大雨・洪水、バンコクの都市機能にも影響― 学校・通勤・空港まで広がる影響、AIと大型インフラで「水が来る前」の対策へ ―

Image AI-generated illustration.

9月25~27日にかけて、バンコクと周辺地域では強い雨が続いた。Reutersによると、バンコクでは48時間で約300ミリの雨が降り、主要道路や住宅地が広範囲に冠水した。バンコク都は市内を災害被災地域に指定し、排水作業、避難所の開設、食料・生活支援を進めた。9月27日時点のバンコク都の情報では、道路の浸水は30区109か所、避難所は223か所が開設され、5,240人が利用していた。

洪水が「日常生活」を止める

今回の洪水で目立ったのは、浸水そのものに加えて「移動できないこと」が市民生活に大きな影響を与えた点である。道路の水位が高くなると、自宅が浸水していなくても、学校や職場に行けない、買い物や病院への移動が難しい、配送が止まるといった問題が起きる。Reutersは、洪水地域で住民が食料を求めて水の中を数キロ歩いた例や、配送員が仕事を続けられず収入に影響を受けた例を報じている。

住宅地では停電、トイレが使えない、家具や家電が水につかるといった被害も発生した。バンコクの一部地域では高齢者が高い水位のため自宅から出られず、行政や軍がボート、食料、移動支援などを提供した。洪水は一時的な交通不便ではなく、生活費や収入、健康、安全にも直接つながる問題となった。

学校 ― 休校・授業変更を柔軟に判断

教育分野では、学校そのものが浸水していなくても、通学路が冠水すれば児童・生徒や教職員が安全に登校できない。タイ教育省は9月26日、洪水への緊急対応として5つの措置を示し、学校長が地域の状況に応じて休校や授業方法の変更を判断できるようにした。また、出席、課題、試験なども柔軟に扱い、「安全を最優先し、学習をできるだけ途切れさせない」方針を示した。

学校は教育施設としてだけでなく、災害時には避難場所としても使われる。バンコクでは洪水対応のため学校を含む公共施設が避難先として活用され、地域住民の受け入れにも使われた。

通勤・仕事 ― 「会社が開いていても行けない」

交通への影響を減らすため、政府は9月28日と29日を、バンコク、ノンタブリー、パトゥムターニー、サムットプラーカーンの4地域で公務員の特別休日とした。民間企業にも、各社の状況に応じて勤務方法を検討するよう協力を求めた。

在宅勤務が可能なオフィスワーカーとは異なり、店舗スタッフ、運転手、配送員、工場勤務者などは現場に行けなければ仕事ができない。そのため道路冠水が長引くほど、個人の収入だけでなく、商品配送、店舗営業、サプライチェーンにも影響が広がる。Reutersは、全国的な洪水による経済損失が少なくとも110億バーツ規模に達するとの推計を報じており、小売・卸売などへの影響も指摘されている。

空港 ― 空港は運航継続でも、都市の洪水が航空に波及

スワンナプーム空港は洪水期間中も運用を継続したが、市内や空港周辺の道路状況は航空業務にも影響した。Reutersは9月29日、タイ国際航空の便で約5,000個の手荷物が空港に滞留したと報じた。タイ空港公社(AOT)も、9月26~29日に到着したタイ国際航空の利用者向けに、遅延手荷物の状況を確認する専用サービスを案内した。

この例は、空港施設自体が浸水していなくても、職員、乗客、荷物、車両が空港まで移動できなければ、航空サービス全体に遅れが生じることを示している。洪水対策では空港の防水だけでなく、道路や公共交通を含めた都市全体の移動機能を維持する視点が重要になる。

政府の対応 ― 排水、警戒、生活支援を同時に実施

アヌティン首相は9月27日、関係機関に対し、同じ情報を共有しながら人員・機械を統合して対応するよう指示した。農業・協同組合省と王立灌漑局は、上流からバンコクへ流れ込む水量を調整するとともに、バンコク周辺の排水路を活用し、ポンプでタイ湾への排水を急ぐ措置を進めた。政府は被災者支援・復旧用として約40億バーツの予算も準備している。

一方、9月30日にはチャオプラヤー・ダムの放流量が毎秒2,500立方メートルに引き上げられ、政府は流域11県とバンコクに対して水位上昇への警戒を呼びかけた。雨が止んだ後も、北部から流れてくる水や河川・運河の高い水位によって影響が続く可能性があるため、都市部では降雨だけでなく流域全体の水量を見る必要がある。

今後① AI・Big Dataで「水が来る前」に判断

今後の対策で注目されるのが、AIとBig Dataを使った予測である。アヌティン政権の政府方針では、水管理と防災の重点施策として、Big Dataを整備し、AIによって水管理情報と気象データを分析・予測し、精度を「タンボン(行政区)レベル」まで高める方針が明記されている。さらに、デジタルデータを基盤とした統一的な警報・緊急対応システムを整備する考えも示されている。

重要なのは、これは「今回の洪水の際に首相が新たにAI導入を発表した」という意味ではなく、政府がすでに掲げている中長期の水管理政策である点だ。雨量、水位、河川、運河、排水能力などのデータを統合し、危険地域を早めに予測できれば、大雨の前に水門やポンプを調整し、道路規制や住民への警報をより早く出すことができる。

今後② 1,600億バーツ超の大型排水プロジェクト

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今回の計画は、総事業費約1,650億バーツ、事業期間8年を予定しており、2027年に着工、2034年ごろの完成を目指している。

中心となるのは、全長約270キロメートルの「洪水排水路(Floodway)」を整備し、北部・中部から流れてくる大量の水を、バンコクや中部地域に集中させず、東側からタイ湾へ直接流す仕組みである。

ルートは大きく2区間に分かれる。第1区間では、チャイナート周辺からパーサック川水系へ水を分流し、第2区間では、パーサックからパトゥムターニーなど東側の水路を通じて、タイ湾まで排水する計画となっている。

政府は、この事業によって約348万ライ(約5,568平方キロメートル)の浸水リスクを軽減し、洪水による経済損失を年間平均約169億3,000万バーツ削減できると見込んでいる。

また、計画では、一部地域を自然の貯水エリア「モンキー・チーク」として活用し、雨季には水を一時的に貯め、乾季には農業用水や生活用水などの水資源として利用する考えも含まれている。

このため、このプロジェクトは洪水対策だけでなく、年間を通じた水資源管理にもつなげる計画となっている。

今後③ JICAと50年先のバンコクを設計

バンコク都は日本のJICAと協力し、「バンコク首都圏都市排水マスタープラン」の策定を進めている。この計画は、今後50年間を見据えて、都市の成長や気候変動を考慮しながら、バンコク全域の排水能力、土地利用、インフラ整備、洪水リスクの高い地域を総合的に見直すものである。プロジェクトの実施期間は約3~5年を予定している。

「排水する都市」から「止まらない都市」へ

今回の洪水で明らかになったのは、洪水の影響が「水がたまる場所」だけにとどまらないことだ。学校に行けない、会社に行けない、配送が止まる、空港の荷物が滞留する――都市の一部で移動が止まるだけで、教育、雇用、物流、観光、企業活動へ連鎖する。

そのため今後のバンコクでは、ポンプや排水路の増強だけでなく、AIによる早期予測、河川・運河を含む広域的な水管理、大型排水インフラ、避難・警報システム、そして土地利用を含む長期的な都市計画を組み合わせることが重要になる。今後の焦点は、「洪水を完全になくすこと」だけではなく、洪水が起きても学校、仕事、交通、空港などの都市機能をできるだけ止めない仕組みを作れるかどうかにある。

 

Sources(リンク先の情報はタイ語または英語で掲載されています。)

  • Royal Thai Government, “Prime Minister Anutin Orders Integrated Flood Response and Relief Measures”

https://www.thaigov.go.th/th/news/169354

  • Royal Thai Government, “Flood Drainage Measures for Bangkok and Surrounding Areas”

https://www.thaigov.go.th/th/169417

  • Royal Thai Government, “Chainat–Pa Sak–Gulf of Thailand Floodway Project”

https://www.thaigov.go.th/th/media/infographic/9507

  • Royal Thai Government, “One Map Water: Integrated Data for Flood and Drought Forecasting”

https://www.thaigov.go.th/th/news/168968

  • Bangkok Metropolitan Administration, “Bangkok Flood Situation – Flooded Roads and Evacuation Centers”

https://roadsafety.bangkok.go.th/floodbkk/

  • Bangkok Department of Drainage and Sewerage, “Project for Formulating the Urban Drainage Master Plan in Bangkok Metropolitan Area with JICA”

https://dds.bangkok.go.th/content/activity/

  • Reuters, “Thousands Huddle in Bangkok Shelters as Thai Flood Damages Seen at Over $320 Million”

https://www.reuters.com/business/environment/

  • Reuters, “Thai Airways to Clear 5,000 Bags Stranded at Bangkok Airport, CEO Says”

https://www.reuters.com/world/asia-pacific/

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