「VIVANT」もタイへ 日本コンテンツがもっと身近に「ジャパナイゼーション」の先に広がる、日本エンタメの新しいかたち―
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タイで、日本のドラマがこれまで以上に身近になりつつある。TrueVisions NOWはNTTドコモとの連携により「Lemino Japanese Collection」を展開し、2026年7月から、日本で放送される作品をタイでも近いタイミングで楽しめる取り組みを本格化させた。特徴は、単に番組を配信するだけでなく、タイ語字幕・吹き替え、現地イベントなどを組み合わせ、タイの視聴者との接点を広げていることだ。
日本のドラマを「日本とほぼ同じタイミング」で
TrueVisions NOWとNTTドコモによる「Lemino Japanese Collection」では、2026年7月から、日本のドラマ5作品を日本での放送と近いタイミングでタイ向けに配信している。ラインアップにはTBSの「VIVANT」新シーズンをはじめ、テレビ東京、日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビの作品が並ぶ。
大きな特徴は、日本で放送された作品を同じ週のうちにタイでも楽しめることだ。さらにタイ語字幕だけでなく、タイ語吹き替えにも対応する。これまで海外で日本のドラマを見る場合、日本での放送から時間が経ってから配信されたり、字幕付きの作品が限られたりすることもあった。現在はSNSによって、日本で話題になっている作品や俳優の情報がタイにもほぼリアルタイムで届く。だからこそ、「日本で今、話題になっている作品を、タイでも今、見られる」ことの意味は大きい。
タイとの距離を縮める作品展開
今回の作品の中でも、タイとのつながりが特に分かりやすいのが「VIVANT」だ。新シーズンではタイが重要な撮影地の一つとなり、タイ人俳優も出演している。タイの視聴者にとっては、「外国から入ってきた日本ドラマ」というだけではなく、自分たちの国や俳優が登場する作品として楽しむことができる。
さらに、オンライン配信だけにとどまらない。2026年8月末にバンコクで開催された「NIPPON HAKU BANGKOK 2026」では、「VIVANT」のスペシャルステージや関連企画も実施された。ドラマを見る、好きになる、イベントへ行く、俳優や作品をもっと知る、そして日本そのものへの関心が広がる。こうした流れを作ることで、「配信したら終わり」ではなく、一つの作品を起点にオンラインとリアルの両方でファンとの接点を広げている。
1972年の反日運動から「ジャパナイゼーション」へ
現在のタイでは日本食、マンガ、アニメ、日本ブランドが日常の一部になっているが、日本へのイメージが最初から好意的だったわけではない。1972年には、日本企業や日本製品の急速な進出、対日貿易赤字などへの不満を背景に、学生を中心とした日本製品のボイコット運動も起きた。
その後、日本の東南アジア外交は変化する。1977年、福田赳夫首相は「心と心の触れあう(Heart-to-Heart)」関係を重視する「福田ドクトリン」を打ち出し、経済協力だけでなく文化・人的交流も拡大した。さらに1985年のプラザ合意後は円高を背景に日本企業のタイ進出が加速。日本は「商品を売る国」から、タイで工場をつくり、雇用やサプライチェーンを生み出す重要な経済パートナーへと変化していった。
同時に、1980~90年代にはアニメ、ドラマ、マンガ、ゲーム、J-POP、日本食などが広がり、日本は「経済大国」だけでなく、「面白い」「新しい」文化を生み出す国としても認識されるようになった。こうした経済関係と文化交流の積み重ねが、1990年代以降の「ジャパナイゼーション」を支える土壌になった。2013年のタイ人向け訪日ビザ免除も、日本を実際に訪れ、食や買い物、サービスを体験する機会をさらに広げた。
「日本だから珍しい」から「日常の選択肢」へ
それから30年以上。現在のタイでは、日本文化はさらに日常化している。タイ人がラーメンを食べるたびに「日本文化を体験しよう」と考えているわけではない。ラーメンが食べたいからラーメン店へ行き、日本のアニメだからではなく、その作品が面白いから見る。日本ブランドだからではなく、その商品が好きだから買う。
つまり、日本由来の商品や文化は、「外国の珍しいもの」から「日常生活にある一つの選択肢」へ変化したともいえる。これは日本企業にとって大きな資産である。30年以上にわたり、日本企業、日本製品、日本食、アニメやマンガなどが積み重ねてきた「日本への親しみ」が、現在のタイ市場には存在しているからだ。
一方で進む「チャイニフィケーション」
一方、近年の東南アジアでは中国企業の存在感も急速に高まっている。ローランド・ベルガーの下村健一氏は、この変化を「チャイニフィケーション(中国化)」と捉える。中国企業はEC・決済から入り、EV、動画配信、ゲーム、コスメ、IP・実店舗へと接点を拡大。さらに日用消費財では「現地でつくり、現地で売る」動きも進み、消費者の日常へ深く入り込んでいる。
同社が2024年に東南アジア6カ国500人を対象に行った調査では、「好きな国」(複数回答)について、30歳未満では韓国74%、中国63%、日本55%だった。一方、30歳以上では日本72%、中国31%となった。調査規模には留意が必要だが、現在の若い世代にとって、日本だけが選択肢ではないことを示す材料の一つといえる。日本、中国、韓国、そしてタイのコンテンツが、同じスマートフォンの画面の中で消費者の時間を競っている。
「良い作品をつくれば売れる」ではない
中国企業の東南アジア展開から見えてくるのは、「良いものをつくれば売れる」だけではなく、現地の生活者から逆算する発想の重要性だ。これはコンテンツにも当てはまる。今回の取り組みでは、タイ語字幕・吹き替え、日本と近いタイミングでの配信、タイでのロケ、タイ人俳優の起用、現地イベントなど、タイの視聴者が「どう楽しむか」まで考えられている。
日本が中国と同じ価格やスピードで競う必要はない。タイには、ジャパナイゼーションを通じて築かれた「日本への親しみ」、日本独自のストーリーや世界観、長年培った信頼という強みがある。重要なのは、その強みを「日本だから人気」と考えるのではなく、現在のタイの生活者に合った形へ再編集することだろう。
日本もコンテンツを「成長産業」へ
こうした中、日本政府もコンテンツ産業の海外展開を本格的に強化している。経済産業省は2026年8月、「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」を公表した。対象となるのは、ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写などのエンタメ・クリエイティブ分野である。
日本政府はコンテンツ産業を日本の成長を支える重要産業の一つとして位置付け、日本発コンテンツの海外売上高を2033年に20兆円規模へ拡大することを目指す。その方向性を分かりやすく表すのが「日本で創り、世界に届ける」という考え方だ。さらに、一つの作品を映像だけで終わらせず、マンガ、アニメ、ゲーム、実写、音楽、グッズ、イベントなどへ広げていく「IP360度展開」も重視されている。
「ジャパナイゼーション」の次をどうつくるか
タイには、30年以上にわたるジャパナイゼーションによって築かれた「日本への親しみ」がある。一方、現在の若い世代は、日本だけでなく中国、韓国、タイのコンテンツを同じ画面の中で楽しんでいる。だからこそ、これから求められるのは「日本だから選ばれる」という発想ではなく、「今のタイの生活者にとって魅力的だから選ばれる」ための仕組みづくりではないだろうか。
今回のTrueVisions NOWとNTTドコモの取り組みは、「日本のコンテンツをタイへ持ってくる」から、「タイの人々と一緒にその価値を広げる」へと変化する、日本コンテンツの新しい海外展開を象徴する一例といえそうだ。
Sources
- TV Digital Watch, 「日本ドラマ5作品をTrueVisions NOWで展開/NTTドコモ連携」 https://www.tvdigitalwatch.com/janpaneseseries-truexntt/
- 経済産業省, 「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」関連資料(2026年8月20日) https://www.meti.go.jp/press/2026/08/20260820001.html
- NNA ASIA, 「東南アジアで進む『中国化』―デジタル基盤、消費者の日常に浸透」 https://www.nna.jp/news/2949449
- Reuters Archive, “THAILAND: STUDENTS MARCH IN ANTI-JAPANESE GOODS DEMONSTRATION” (27 Nov. 1972) https://reuters.screenocean.com/record/240091
- 外務省, 「ASEAN(東南アジア諸国連合)概況」―1977年の福田ドクトリン(「心と心の触れあう」関係) https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/asean/page25_001325.html
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